私たちは子供さんの留学を真剣に考慮している保護者の方々から時々、ホームステイ先について心配される相談を受けます。確かに、十数年前にどこかの新聞でホームステイ先へ行ってみたらガレージを改造したような劣悪な建物の中に何人もの留学生が同居させられていたというニュースが報道されていたことがありましたので、中にはそのような最悪の事態を心配される方もいらっしゃると思います。しかし、これは全くの特異なケースで、最近では留学生を受け入れるほとんどの受け入れ団体(学校や教育委員会等)がホームステイ先の住宅環境を事前に調査した上で責任を持って手配していますので、このような悲惨なことはまず絶対にあり得ません。
しかし、それでもトラブルは残念ながら時々発生し、時には私どもが間に入ってホームステイ先を変更してもらったりすることもあります。このように書きますと、心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、そのトラブルの原因を分析してみますとほとんどのケースは、ホストファミリーそのものが悪いと言うよりも、留学生とホストファミリの言葉や生活習慣の違いなどに行き着くようです。
具体的な例をあげましょう。
以前、留学生AさんがXというホームステイ先に対して不満を持ち、どうしても変更をして欲しいと言うことがありました。私どもで良く調べてみると、そのXというホームステイ先は契約どおりきちんと快適な個室をAさんに提供してくれていますし、食事も奥さんがクッキングを趣味していたくらいでしたから、標準よりは良いようでAさんもそのことには不満がありませんでした。その他、XさんはAさんにとてもよく気を配り、時には車で学校まで送ってくれたり、休日どこかへ連れて行ってくれたりなど面倒を良く見てくれているようでしたから、Aさんの保護者もとてもXさんには感謝をしていたのです。ところが、ちょっとした言葉の行き違いが原因で、それ以来Aさんは一方的にXさんのことを嫌うようになってしまったのです。このように書きますと、A
さんは随分とわがままな人物だと思われるかもしれませんが、そんなことはなく、Aさんは普段は明るく素直のお子さんでした。結局、私たちは学校側とも協議をしてAさんをYさんという別のホストファミリーへ移すことにしました。
住宅環境や食事面などを比較した場合、客観的に見てXさん宅のほうがYさん宅より上であると私たちは思っていたのですが、Aさんは引っ越して以来ずっとYさん宅が気に入り、留学を終了するまでハッピーに過ごしたようでした。
ところが、この話には後日談がありまして、その後Aさんが日本に帰国した後、私たちは別の留学生BさんをこのYさんのお宅に紹介をしました。Aさんのことがありましたから、私たちはきっとBさんもYさん宅を気に入ってくれるだろうと思ったのです。けれど、しばらくすると、Bさんから保護者を通じてクレームが私どもに寄せられました。提供される食事がワンパターンで量が不十分だというのです。Aさんはそのような苦情は一切言ってきませんでしたから、私たちはびっくりさせられました。けれど、今度は以前の経験がありますから、いきなりホストを変更せずに、Bさんに「時には一緒にお買い物に行って、自分の食べたいものをリクエストしたり、量をもう少し増やして欲しいと伝えたりすることは失礼にはならないから、そのようにしてみては」とアドバイスをしました。すると、それ以来、クレームはぴたりと収まりました。Bさんは、活発な方でしたが、控えめなところもあり、ホストファミリーに遠慮をしていたようでした。でも、そのために不満が知らず知らずのうちに溜まっていたのですね。
このように、AさんもBさんも特に個性が強いと言うわけではなく、ごく平均的な日本人高校生の感覚と常識を持っている人たちですし、Xさん宅もYさん宅もホストファミリーとしては特別問題のない家庭なのですが、このように同じホームステイ先に滞在しても全く別の結果になることもあるのです。そして、実を言いますと、AさんやBさん以外にも、ホストファミリーとうまく行かず、途中で変更をするケースが時々あるのです。けれど、面白いことに一度変更をすると、ほとんどの人は二件目のホストファミリー先で満足しています。これが何を意味するのか。いろいろなことが考えられます。例えば、ホストを一度変更をした人は引越しが結構大変だったので、多少不満でも我慢をするようになったという考え方も出来るかもしれません。でも、これはカルチャーショックの一つなのではないかと、私は考えています。実際に言語や文化、生活習慣の異なる人たちと暮らしてみると、最初はみな想像とは違うことが多くて戸惑うものなのです。その戸惑いのために、中にはホストファミリーが自分に悪意をもっていると誤解をしてしまって関係が悪くなってしまうケースもあるように思います。ところが、二件目になる頃にはある程度言葉も分かってきますし、文化の違いにも慣れてくるので、心に余裕が出来て多少のことには動じなくなるのではないでしょうか。
カルチャーショックと簡単にいいますが、これは年齢の若い人たちには意外と大きな障壁になっているようです。しかし、私たちの場合は現地に在住している日本人スタッフが間に入ってアドバイスをしたりしますので、多くの場合は乗り切れているようです。 |